いつも頭がぼんやり…
30代後半から40代半ばにかけて、英語学校の講師や教材作成をしながら、副業として出版翻訳に携わっていました。
当初は実用書の翻訳がメインでしたので、締め切りが比較的短かったように思います。本業のほうは時間が不規則で、夜の授業が入っている曜日は夜9時近くまで働いていました。本業の合間を縫って、早朝や夜遅くに翻訳をこなすしかありません。早朝ならまだ調子がよいのですが、深夜に翻訳作業を終えていざ眠ろうとしても、緊張が解けずなかなか寝つけませんでした。
そんな生活を毎日続けるうちに、いつも頭がぼんやりして、すっきりしない状態に悩まされるようになりました。集中すべきときに集中できず、頭がうまく働きません。そうなると悪循環で、ますます仕事の効率が低下していきました。
それでも私が怠け者だからいけないのだ、もっとがんばらねば、と自分にビシビシ鞭打って働き続けました。授業を休むわけにはいかないし、翻訳には締め切りがあったからです。いつものごとくがむしゃらに根性と努力で乗り切ろうとしていました。ちゃんとがんばれないのは、怠惰でぐうたらな自分が悪いのだと。
脳は怠け者。どう動かすかが大事
そんな時に出会った本が、脳神経外科医である築山節さんの『脳が冴える15の習慣』でした。
最近は脳科学の立場から時間管理術や仕事術を論じている本も多数ありますが、当時の私には「脳は基本的に怠け者であり、楽をしたがるようにできている」という事実は衝撃でした。なるほど、自分が怠け者だから悪いわけじゃなかったのか、と思わず膝を叩きました。すっかり気持ちが軽くなったのを覚えています。
人間はどこかで、会社なり学校なり、自分以外の誰かに動かされている環境を持っていなければいけません。何も強制されていない環境に置かれると、人間はいつの間にか、脳のより原始的な機能である感情系の要求に従って動くようになってしまいます。その結果、生活リズムを失い、面倒なことを避けるようになり、感情系の快ばかり求める生活になる。脳は基本的に怠け者であり、楽をしたがるようにできています。
築山節『脳が冴える15の習慣 記憶・集中・思考力を高める』(生活人新書 NHK出版)P.23
築山先生によれば、「脳の活動を安定させるには、生活のリズムを安定させることが大切」「脳にもウォーミングアップが必要。足・手・口を意識して動かそう」「集中力や頭の回転の速さは、それ自体を『上げよう』と思っても上げられない、脳は自分にそういう指令を出せるようにはできていない。できるのは時間と仕事の量の関係をはっきり認識すること」「脳の基本回転数を上げるには、時間の制約が必要」とのことでした。
そうです、生活リズムの乱れにもまして、またしても私の悪い癖でだらだらと時間をかけて作業をしていたのが悪かったのです。リズムよく、一定の時間だけ集中して作業に没頭する、その繰り返しが大事。築山先生は「『試験を受けている状態を1日に何回つくるか』という方向に考えを切り替えていかないと、いつまでも脳を上手く使えるようにはならない」と述べています。
真面目な人ほど要注意
先生によれば、真面目な人間ほど悪習慣におちいりやすいそうです。真面目だからこそ残業したり、仕事を家に持ち帰ったり、あるいは帰宅後もずっと仕事のことで悩んでしまったり。でもそれは逆効果で「時間の制約」を取り戻して、定時までに必ず仕事を終わらせようとする姿勢が必要なんですね。何事もメリハリやリズムが大事なのでしょう。
ただ、私の場合、根本的に仕事が遅く、悩みやすい傾向があるため、本書の提案をなかなかうまく実践できませんでした。それでも自分を怠け者と責めずにすむようになったことが大きな収穫でした。ほんと、心が軽くなりましたね。ぐずぐずしてしまっても、「ああ、脳は怠け者だから仕方ないよね~」と言い訳できるようになりました。いや、そうじゃなくて、「試験を受けている状態」を持とうよ!
脳は基本的に怠け者であり、楽をしたがるようにできている
何も強制されていない環境に置かれると、脳のより原始的な機能である感情系の要求に従って動くようになってしまう
生活のリズムを安定させ、試験を受けている状態を1日に何回かつくろう
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