こんにちは。映画を鑑賞していると、その時々の自分の心に響くセリフや言葉があります。
私は原語の音を聞きたいので、基本的に字幕で洋画を見ますが、もちろんリスニング力はそんなに高くないので日本語字幕を読んで、内容を理解します。
すると、いいセリフだな、すてきな表現だな、と感じる日本語に出会います。そして、そう感じると、もとの英語ではどう表現しているのか、気になって調べます。
そんな名セリフや表現を原文とともにご紹介して、翻訳のことなどもあわせてお話しできたらと思います。
人生を少し豊かにしてくれる含蓄のあるセリフを楽しんでいただき、あわせて英語や翻訳の勉強のヒントにもなれば、うれしいです。
映画『メッセージ』Arrival(2016)
作品の概要についてはallcinemaから引用いたします。
人気SF作家テッド・チャンのベストセラー短編集『あなたの人生の物語』に収められた表題作を「プリズナーズ」「ボーダーライン」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化した感動のSFドラマ。ある日突然地球に飛来した謎のエイリアンとの意思疎通という重責を託された女性言語学者を待ち受ける衝撃の運命を描く。主演は「魔法にかけられて」「アメリカン・ハッスル」のエイミー・アダムス、共演にジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー。
allcinema『メッセージ』解説より
私はごく最近WOWOWのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督特集で『灼熱の魂』(2010)を観て、あまりにも衝撃的な内容でのけぞったのですが(笑)、『ブレードランナー 2049』しかり、この監督の力量のすごさに圧倒されました。派手な演出ではなく、どちらかといえば地味なほうかなという気もします。しかし、緻密かつ丁寧な描写ながらけっして冗長にならず、一切無駄がなく、映像も美しく、心に訴えてくるんです。
なにより、ふつうなら信じられないようなプロットやストーリーも、この監督の手にかかるとすんなりと頭に入ってきて、まるで現実にあり得ることのように感じてしまいます。個人的にいま一番気になる監督です。
心に残る人生の含蓄にあふれたセリフ
エイリアンとの接触を題材とするSF作品ではありますが、たぶん、この映画の伝えたいことはもっと違うところにあると感じました。原作は未読ですが、「時の流れ」の概念がひとつの大きなテーマなのかと。
さらに「うまい仕掛け」があって、ああ、そうきたかと唸らされます。ネタバレを避けたいのではっきり言及しませんが、その仕掛けがあるからこそラストの感動もひとしおです。
ご紹介するのは、映画のラスト、エイリアンの言語を解読し、彼らの時間の概念を理解した主人公の独白です。
この先 何が起きるか
分かっていても――
構わない
どの瞬間も大切にするわ
映画『メッセージ』字幕版より引用
Despite knowing the journey and where it leads,
I embrace it.
And I welcome every moment of it.
Subs like Script ARRIVAL (2016) – FULL TRANSCRIPTより
ここではembraceとwelcomeという動詞がどちらも「喜んで受け入れる」という意味で使われています。
やはり字幕翻訳は技ありという感じで、「~ても構わない」→「~大切にする」というつなぎ方がすばらしい。観客や視聴者にとってわかりやすく、すんなり理解できますね。
そして、彼女がのちにパートナーとなる男性物理学者に問いかけるセリフ。
この先の人生が見えたら
選択を変える?
映画『メッセージ』字幕版より引用
If you could see your whole life from start to finish,
would you change things?
Subs like Script ARRIVAL (2016) – FULL TRANSCRIPTより
本編を観ていただくと、このセリフが胸にぐっとこたえること必至です。
“if you could~, would you…”と仮定法過去の文章になっています。
字幕翻訳の技として、”change things”を「物事を変える」とあいまいな形で直訳せず、「選択を変える」とはっきりと具体的に観客や視聴者に伝えています。
マックス・リヒター「オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト」
オープニングとエンディングに使用された音楽、マックス・リヒター「オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト」がもう映像にぴたりとはまって、この曲が流れてくるだけで胸が締めつけられて号泣できちゃいます(笑)。
一瞬一瞬を大切にしたい
今回ご紹介したセリフは、ひょっとすると10代、20代の若い方々にはまだそんなに胸に染みることはないかもしれません。
私のように老いを感じ、身近な人の死も経験し、親が心も体も弱っていく姿を間近で見つめているからこそ、より一層心に響くのかもしれません。いずれ訪れる別れを予期しつつ、恐れ、悲観するのではなく、いまこの一瞬一瞬を大切にしたい、と。
最後に少しだけ。もし字幕翻訳に興味があって、勉強してみたいなと思ったら、フェロー・アカデミーがお勧めです。私自身も通信講座を受講したことがあります。
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