いつもギリギリで余裕がない!
子供の頃からよくグズグズしていました。テキパキと物事をこなすのが苦手で、なににつけても時間がかかりました。肯定的にとらえるなら、よく考えて納得してから作業に取り掛かる慎重なタイプですが、否定的にとらえたら、優柔不断で迷ってばかり、ギリギリになるまで、まさに動かざること山のごとしというノロマなタイプ。テスト勉強も夏休みの宿題もいつも後回しで、結局直前になって必死になんとか仕上げる、ということの繰り返しでした。
それでも、私が若かった当時は、タイムパフォーマンスという概念など話題にのぼることもなく、会社ではずるずると残業するのもさほど珍しいことではなかったので、私もなんとか生き延びられたのではないかと思います。
出版翻訳については、ある程度のボリュームのある本なら最低でも3カ月くらいの翻訳期間をもらえました。さすがに締め切りギリギリに取り掛かることはなく、毎日大体何ページ訳す、チェックや推敲の期間はこれくらい、ときちんと予定を立てていました。
でも、翻訳というものは、訳す作業がいちばん大事とはいえ、調べものにかなり時間をとられます。たとえば地名や固有名詞、歴史的な事件、時代背景など、自分の知識や語彙、経験が不足しているせいもありますが、よくわからないことが出てくると、たとえば主人公の身につけている服や靴の描写など、とにかくひとつひとつ丁寧に調べて訳語を決めていくわけです。
調べものでいちばん困ったのは、私自身の知識不足以上に、決断力のなさでした。今ならインターネットでいくらでも調べ続けられるので、これだ、という情報を求めて延々とパソコン画面とにらめっこすることもありました。
それでもなんとか締め切りに遅れることなく翻訳してきた私ですが、60代に入る手前で、もうひとつ、かつての夢に再チャレンジと思い立ち、映像翻訳(字幕)の勉強を始めました。映像翻訳は、出版翻訳と違い、かなりのスピードを要求される仕事なんです。たとえば50分ほどのドキュメンタリー作品を1週間で1本仕上げる、というようなスケジュールです。SSTという字幕制作ソフトを用いたスポッティング(ハコ切り)、訳出、調べもの、チェックなど数多くの作業が含まれます。
私は慌てました。いつもの要領の悪い、グズグズしたやり方ではとてもまともに仕事ができません。どうしたらいいんだろうと真剣に悩みました。
中島聡さんの「ロケットスタート時間術」
そんなとき元マイクロソフトの伝説のプログラマー中島聡さんの『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』という書籍に出会い、衝撃を受けました。
中島さんが提唱する「ロケットスタート時間術」は、ざっくりまとめると、最初の2日で仕事の8割を終わらせることを信条とする、そうすれば締め切りまでの残りの8割の期間はのんびりと仕事をすることができる、この時間を「流し」で仕事をする、余裕があっても次の仕事を入れない、というものです。
仕事が終わらなくなる原因の9割は、締め切り間際の「ラストスパート」が原因です。
ですから、10日でやるべきタスクだったら、その2割の2日間で8割終わらせるつもりで、プロジェクトの当初からロケットスタートをかけなければなりません。初期段階でのミスならば簡単に取り戻せますし、リカバリーの期間を十分に持つことができます。
とにかくこの時期に集中して仕事をして、可能な限りのリスクを排除します。考えてから手を動かすのではなく、手を動かしながら考えてください。崖から飛び降りながら飛行機を組み立てるのです。
中島聡『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』(文響社)P.155
「最初の2日で仕事の8割を終わらせる、つまりスタートダッシュで一気に作る」「時間に余裕があるときにこそ全力疾走で仕事し、締め切りが近づいたら流す」「ロケットスタート時間術の本質は余裕を持つことであり、高速で次々と仕事を終わらせていくことではない」などなど。
仕事もトライアルも余裕が大事
ちょうど字幕翻訳講座が終了し、トライアル受験となった頃だったので、私はさっそくロケットスタート時間術でトライアルに挑戦することにしました。厳密に「2:8の法則」を実践するのはさすがにきつかったので、ロケットスタート期間に少し余裕をもたせましたが、とにかく8割終わらせるように努力しました。
いつもの私なら、疑問点や調べものでつまずくとそこで作業が完全にストップして悩み、迷い、そのうち疲れてイヤになるという最悪のパターンでした。でも、最初からロケットスタート時間術でやってみる、と決めていたので、途中で悩みだしたら、とりあえずの翻訳案を出しておき、次々と作業を進めていきました。
余裕があるというのは精神的にかなり楽なのだと実感しました。期限の数日前にはすでにほぼ完成していますから、焦ることなくチェック作業を何度も行えました。時間的にも精神的にも余裕があると、ミスも見つけやすくなったのです。
締め切りが近づいているのにまだ完成には程遠いとなると、最終的にはなんとか仕上げられるとしても、かなり精神的に追い詰められてしまいます。焦るとミスも出やすいでしょう。どうにか期限に間に合っても、なんだかやっつけ仕事をしたような気がして、私はいつも後ろめたい気持ちになったものです。
それでトライアルには受かったのかって? はい、ギリギリ受かりました。でも結果を見ると、高く評価されていたのは調べものの丁寧さだったので(笑)、この時間術のおかげで受かったわけじゃないのかも。でも、とにかく気持ちよくトライアルをこなせたのは間違いありません。あんなに充実したトライアル受験は初めてでした。焦らず余裕を持つことの大切さを再認識しました。いや、この年齢で、遅すぎるだろうって自分でも思いますが。
仕事での時間管理に悩んでいる方には、ひとつの方法としてぜひお勧めしたい書籍です。著者の人柄もよく表れた、読み物としても楽しい本でした。
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