おそらく私は孤独に生きているように思う。離婚してからずっと独身のままで老後を迎えているし、母を見送った今は親戚づきあいもほとんどなく、近所の人とも挨拶を交わす程度の関係だ。
昔から人づきあいが苦手だった。他人との距離感がつかめない。近づきすぎて結局反発しあうはめになったり、逆に距離を保とうとしたら本心を明かしてくれないと責められたりした。
早くに亡くなった父は割合社交的な人だったようだが、母のほうは60代に入ってから良い友達に恵まれたものの若い頃は家庭と仕事のみの限られた交友関係しかなかった。母は手先が器用で頭も悪くなく、語学の才能にも恵まれており、尊敬できる部分も多かったのだが、若いころは短気で癇癪をおこしがちだった。気難しい一面があり、到底気さくにつきあえるタイプではなかった(娘の私は同性としてことさら厳しい目で母親を見ていたのかもしれないが)。母親似の私にはよくわかる。私はそんな母の気性を自分のなかに見るたび自己嫌悪におちいったものだ。
そんなこんなで、他人に心を開けない。他人が怖かった。幸い独りでいるのは苦にならない。近頃は一人でどこへでも行けるようになった。そんな状態が自由だと感じられ、居心地がよい。
独りの時間が好きだし、気を遣いすぎる性分の私には、他人を気にせず自由に行動できるのがうれしい、気楽だと心底思う。とはいえ、その一方で、客観的に見れば、おそらく「寂しいひと」ということになるのだろう。
こんな私にもありがたいことに友人はいる。一方的にかもしれないが「親友」と呼んでいる人たちもいる。とはいえみんなベタベタせずプライバシーを大切にしてくれる、相手への配慮のありすぎる人たちばかりなのであまり向こうから連絡してくれない。
SNS全盛期の昨今なのに、LINE等でメッセージが送られてくるのは企業の宣伝ばかり……。
私には特に大切な親友がいた。彼女にはなんでも話せた。恥ずかしい自分もみっともない自分もさらけ出せた。数え切れないくらい何度も会い、美味しい食事やお酒を楽しみながら語り合った。
でもある大病をきっかけに彼女は自分からは連絡を一切くれなくなった。もちろん、私から連絡すればすぐに返事をくれる。いつも優しく接してくれる。みんなそれぞれ事情がある。大切な人だからこそ相手の意思を尊重したい。それでも一抹の寂しさはある。わがままをいえば、私のことをたまに思いだして、自分から連絡してみようとは思ってくれないのかな、となんとなく悲しくなってしまう。
誰かにとって特別な存在になりたいとかつては考えていたのかもしれない。だから結婚したのだろうか。
でも誰でも独りなのだ。死ぬ時は独りだ。何もかも理解してくれて、助けてほしい時に助けてくれる、慰めてくれる、そんな人なんていない。たぶん……。
私は独りで生きていく。生きていかなければ。独りが寂しいわけじゃない。孤独な時間は豊かな時間でもある。大丈夫。元気でいられる限り自分らしく生きられれば、それでいい。
そんなふうにして毎日を過ごしていると、誰かに気遣ってもらったり誰かに心配してもらったりということもないように思いこんでいた。みんなそれぞれ忙しい。必死に毎日生きているのだ。
ところが先日、亡き母もお世話になっていた女性が留守中に何度も訪ねてきてくれていた。ちょっとしたデマ情報のせいだったが、私の身を案じてくれていたらしい。
思いがけず自分を心配してくれている人がいたと気づいて、うれしかった。心が温かくなった。
知らないところで気遣ってもらっている。そう気づいたことで(私の友人たちも実は陰ながらそんなふうに気遣ってくれているのだろうが)、私はちょっぴり救われた。心の底からありがたかった。大げさかもしれないが、生きる勇気をもらえた。
だから、私も自分の気持ちをなるべく周囲の人たちに伝えていきたい。そのつど感謝の気持ちを表したい。そんなささいなことが誰かの心をほっこりさせるかもしれない
後日談。お世話になっていた女性のこと。あとからその女性が認知症を患っていると知った。やけに頻繁に何度も何度も訪ねてくれていたので、ほんの少しおかしいとは思っていたのだが。
人生は悲喜劇だなとつくづく思う。それでもその人が私を気遣ってくれたことは間違いない。長らくお世話になった方なので病気のことを知って、かなりショックで悲しかったけれど、いままでどおりの温かくて素敵なご様子だったので、少しほっとしてもいる。
とにかく、生きていこう。行けるところまで行こう。それしかない。もうそれだけだ。
コメント
コメント一覧 (2件)
相手のことを思っても、「忙しいのでは」、「実は嫌われているのでは」、「こんなこと言っても迷惑だよね」と連絡をやめておく人が多いのではないでしょうか。
超明るい人は信用できない。布団とか売られそうだから。
実直な人ほど黙っていると思います。難儀なことですね。
そうですね。そうかもしれない。うん、確かに超明るくてグイグイ押してくる人は信用できない。なんか裏があるっぽい。こっちが疑り深いのもあるけど……。ほんと難儀なことです。