こんにちは。今回は「孤独」について私感を述べてみたいと思います。
誰の役に立つのかわかりませんが、ひょっとすると、いま「独りだから寂しい、しんどい、苦しい」「ひとりぼっちが耐えられない」と考えている方がいるなら、少しは気が楽になっていただけるかもしれません。
独りだから「孤独」とは限らない
孤独を感じる理由は人それぞれだとは思います。友達がいないから、一人暮らしだから、家族がいないから、独身だから、離婚したから、など。
「物理的に一人でいる」から「孤独」と感じる、あるいはいまその状態になりそうで「独りになったら寂しいだろうな」と想像している、というケースが多いかと。
私個人の経験をお話しすると、おそらくいままで一番「孤独」をひしひしと感じた瞬間は、結婚していたときにやってきました。
私は20代後半で結婚して5年後に離婚しています。恋愛結婚でした。元夫とは性格や物の見方、感じ方、考え方が似ていた点では相性が良かったのですが、家庭観や結婚観が根本的に違っていたため、結局別れることになったのです。
元夫の実家は、昭和の高度成長期の典型的なサラリーマン家庭。母親は専業主婦、会社勤めの父親の収入のみで生活が成り立っていました。父親はいわゆる亭主関白タイプだったと思います。
一方、私の家では、祖父母、両親ともなんらかの仕事をしていました。養子だった父はサラリーマンで、のちに公務員に転職しましたが、祖父母は賃貸業にタバコ屋、母は自宅で洋裁や生け花を教えていました。「収入は三本柱で」という家訓(?)があったとかないとか……(笑)。
そんなわけで元夫も当然ながら亭主関白タイプだったので、主に自営業の家で育ち、自分も働く気満々だった私とでは、結婚観がまるきり違っていたのですね。
そもそも誰かと一緒に暮らすのは大変なものだから、現実と折り合いをつけて、うまくやっていくしかないよね……。
人生で初めての恐ろしい孤独とは……
そんなわけで離婚話も近づいた当時、私は「わかりあえない」孤独をひしひしと味わっていました。
夜、隣で先に眠っている元夫の寝顔をじっと見つめながら(いま想像するとちょっとホラーですが……)、どうして思いが通じないのだろう、なんでわかりあえないのだろう、愛しあっていたはずなのに。
すぐそばに大好きな人がいながら、手を触れられない。絶対にわかりあえない。相手から拒絶された絶望感。
それは、物理的に一人でいるときよりも、恐ろしく、私が人生で初めて感じた、絶対的な孤独でした。
もちろん、人間同士が心底理解しあえるなんて、そんなのはしょせん無理だといまならわかります。当時の私の孤独は甘えでしかなかった。
でも、まだ若かった私は、そのとき「ひとりぼっちの孤独より、好きな人といるときの孤独のほうがずっと寂しいものなんだ」と実感したのです。
それ以降、寂しいとふと思うことはあっても、いや、二人でいるときの孤独のほうが恐ろしい、と思い直します。
わかりあえないからこそ、わかりあおうとする努力が大切なのかも……。
孤独は贅沢な時間でもある
もう1つ、「孤独」といえば思いだす個人的なエピソードがあります。
20代前半、まだ独身の頃、大型フェリー船に乗って九州に向かう途中、一人で海を見つめていると底知れぬ不安と孤独を感じたものです。海の底へ引きずりこまれそうな恐怖がありました。泳げなかったからかもしれませんが……(笑)。
でも、同時に自分と向きあい、自分という存在を見つめる贅沢な思索の時間でもあるように感じました。
ところが、30歳頃に当時夫だった男性と同じフェリー船で九州への旅に出たことがあったのですが、愛する人と乗った船はまったく別物でした。孤独も不安もなく、海の恐怖など存在しなかったのです。不思議ですね。
そして、およそ3年後、私は離婚して、また「孤独」を取り戻しました。海や自然の景色を眺めて、自分と向きあい、生きる意味を自分に問い、思いを巡らすという、満たされないけれど、ある意味では贅沢な時間を再び手に入れました。
私は孤独を受けいれたのかなと思います。愛する人と一緒にいながら感じる孤独が、もっともつらいと個人的には感じたからこそ、満たされず、誰かとつながりたいという思いを抱くのも一種まだ幸せなのかなとも思うのです。
孤独を良くないものとせず、受けいれてみるのも悪くない。孤独に打ち勝つのではなく、ただその感情を認めるだけでいい。孤高は美しい、なんていうと大げさですが、これから老域に入るからこそ、自分の「孤独」を大事にしたいと思います。実際、そうせざるを得ないってこともありますが(笑)。
あんまり深く考えずに、独りなら独りの時を、誰かと一緒なら誰かと一緒の時をとにかく楽しめたらいいね。
「孤独」についてお勧めの本
ここで「孤独」に関わる小説をひとつご紹介します。アガサ・クリスティー作『春にして君を離れ』。いわゆるミステリー作品ではありません。なんとも奥深い物語で、胸が苦しくなるようなラストシーンが印象的です。ある意味「人生のミステリー」「人間存在のミステリー」といった作品でしょうか。
一節だけ引用しておきます。未読で興味を持たれた方はぜひご一読を。
君はひとりぼっちだ。これからもおそらく。しかし、ああ、どうか、きみがそれに気づかずにすむように。
アガサ・クリスティー著 中村妙子訳『春にして君を離れ』(早川書房)
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