私は根っからの悲観的でネガティブな性格で、未来や自分の将来にいささかも希望を抱けなかったのです。
しかし、今回ご紹介する書籍『未来に先回りする思考法』を読んで大きく意識が変わりました。物事を見る視点や思考法がそもそも間違っており、思考停止におちいっていたのでしょう。いまの自分の狭い世界から物事を判断してはいけないのですね。
今回の読書体験をきっかけに、ひょっとすると未来は明るいかもしれないと思いはじめました(笑)。
先行き不安、孤独死の恐怖……お先真っ暗?!
私が未来に希望を持てなかったのは、私自身の生来の性質にくわえて、個人的に自分の行く末を案じていたこと、日本における社会や政治の閉塞感、テロや争いの絶えない世界情勢などが理由にありました。
私は独身で子供もおらず、身内は姉がひとりいるだけ。親戚づきあいもほとんどなくなっています。
75歳で脳出血に倒れ半身麻痺になった母を介護し、間近で見てきました。年老いて精神的にも肉体的にも衰え、誰かの世話を必要とする状況を目の当たりにしてきたのです。
それでも母には私たち娘がいましたから、生活の不安をそれほど感じていなかったと思います。実際、母が倒れてからは生活に関わることをすべて娘の私が担ってきました。
いずれ確実にひとりになるであろう私は、孤独死が怖くてなりませんでした。老後に頼れる身内はおらず、ほかに誰か親しい友人や知人の世話になることも期待できない。友人たちには家庭があり、それぞれ大切な人たちがいます。私は独りぼっちで、老いた肉体とともに生きていかねばならない……。
日本では少子高齢化が長らく問題とされており、今後、高齢者への福祉サービスはますます削られていくと予想されます。かつての豊かな中間層は消え、格差は広がるばかり。将来への不安や心配は尽きません。
テクノロジーの進化、すべては「必要性」から始まった ~『未来に先回りする思考法』より~
そんなときに出会ったのが『未来に先回りする思考法』(佐藤航陽著、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)という書籍です。
著者の佐藤航陽さんは起業家・発明家で、フォーブス「日本を救う起業家ベスト10」、AERA「日本を突破する100人」、30歳未満のアジアを代表する30人「30 Under 30 Asia」などに選出されたことがあるそうです。
X(旧ツイッター)においても成功のヒントになりそうな有益な発言を多数されています。
本書を読むことで、やっと気づきました。自分のいまの状況や認識、思考力のみから将来を判断してしまってはいけない、と。
テクノロジーの進化、新しいテクノロジーが社会システムをどう塗り替えていくのか、という視点が私にはまったく欠けていたからです。
本書ではテクノロジーの進化の流れが詳しく解説されており、すべては「必要性」から始まったと再認識できました。
国や自治体の対応が遅いのは仕方がないとしても、企業はその性質上、必要性を察知して提供し、拡大を続ける、誰かの困りごとを解決していくのだと。もちろん資本主義そのものの是非はあるでしょうが、企業が行う活動や競争も、最終的には世の中をより便利に、より快適にしていく、と著者は話しています。
「(ハブの中心に権力が集中する)ハブ型の近代社会」から「(中心が存在しない)分散型の現代社会」へ。
社会システムの変化とともに、中心に集められた情報を掌握し権力を握る「代理人」の力が失われ、個人のネットワークが形成されていく。テクノロジーによって国家と企業(公共事業やロケット開発など)、社内と社外(クラウドソーシングによる労働力の活用など)、自分と他人(プライバシーの概念)といったさまざまな境界線が溶けていく。
将来、テクノロジーの進化でさまざまな制約が消え、個人としてももっと自由に生きやすくなるのかもしれません。クラウドファンディング、ソーシャルビジネス、シェアリングエコノミーといった、新たな方法でさまざまな問題を解決することも可能になっています。
さらにいえば、私の母のように体が不自由になっても、「テクノロジーと融合」が進むことで将来にはもっとよい形で課題を解決できる可能性もあるとわかりました。
下記にも引用していますが、「既存の枠組みの中だけで答えを探そうとすれば、手段の目的化が進み、本質からずれた議論になってしまう」と著者は述べています。
まさにそのとおりですね。思考停止してはいけない。自分の狭い視野から物事を見ていてはいけない。自分の思考を変えねばならない。
視点や思考を変えると、未来は明るいと感じられる。希望がわいてきました。
既存の枠組みの中だけで答えを探していてはダメ
とくに印象に残った指摘は、以下の2点です。
1.「投票率が低いことは悪なのか」
若者の投票率の低さについて報じられるようになって久しいと思いますが、著者はこの点についても違う視点からとらえています。
環境や条件が変われば、問題解決の手段も変わる。既存のプロセスを通さなくても従来の政治の目的は達成可能な時代になりつつある、それなのに「投票率を上げよう!」と叫び、他の選択肢を検討しないのは、ある種の思考停止だ、と著者は言います。
本当に考えなければいけないのは、どのようなシステムであれば民意をスムーズに汲み取れるか、社会の課題を効率的に解決できるかだ、と。
さらに、今考えるべきは投票率を上げる方法ではなく、時代に合致しなくなったシステムに代わる新しい仕組みの方でしょう、と著者はきっぱり告げています。
本当にそれが必要なのか、別のもっと良い方法はないのかを常に考え続けてください。目の前にある仕組みそのものに疑問を持てなくなってしまい、既存の枠組みの中だけで答えを探そうとすれば、手段の目的化が進み、本質からずれた議論になってしまいます。
佐藤航陽『未来に先回りする思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)第2章 すべてを「原理」から考えよ 塗り替えられる近代の社会システム 2. 政治 投票率が低いことは悪なのか
あるシステムは、社会に浸透してしばらく時間が経つと「どんな必要性を満たすために生まれたのか」という目的の部分がかすんでしまい、そのシステム自体を維持することに目的がすり変わってしまうというのも、繰り返し見られるパターンです。だからこそ私たちは、定期的に原点に立ち返ることが必要になります。
佐藤航陽『未来に先回りする思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)第2章 すべてを「原理」から考えよ 価値主義の特徴 1. 目的への回帰
この指摘は、私にとって衝撃でした(大げさでしょうか?)。まさしく私は思考停止におちいっていたのですね。投票率が低いから政治が変わらない、だからもっとみんな投票に行くべきだ、とただ単純に考えるだけでした……。
2.「ロボットが仕事を奪う」?
昨今、将来ロボットやAIに仕事を奪われるのではないか、という不安は誰もが抱いているのではないでしょうか? 私もそのひとりでした。
しかし、ここでも著者は、そもそも、ロボットによって労働が「奪われる」という表現が本当に適切なのか、と問いかけています。そして、労働自体がどんな必要性を満たすために生まれたのか、原理に立ち返って考えてみようとします。
私たちは、テクノロジーと経済の進歩によって労働から解放されていっているともいえるのです。しかも、全体としての労働時間が減る一方、生活は確実に豊かになっています。
佐藤航陽『未来に先回りする思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)第3章 テクノロジーは人類の敵なのか 「ロボットが仕事を奪う」に欠けている視点
著者によれば、「仕事がなくなればお金を稼げなくなり、お金がなければ生活ができないという図式」は、今後は続かないと考えられるそうです。人間にとって長時間の労働が普通になったのは人類の歴史から考えればつい最近であり、また、労働の減少は必ずしも貧しさと直結するものではない、と。
多くの人は、労働者であり消費者である、テクノロジーによる効率化は労働者にとっての収入を減らす可能性があるのと同時に、消費者に対してのコスト削減というメリットももたらす、というのが著者の考えです。「ロボットに仕事が奪われる」という主張にはこうした視点が欠けている、と。
現在の労働環境を無条件に「当たり前」と受け入れる議論に意味はない、と著者は主張します。ロボットやAIによって社会が効率化されていけば、いずれは企業によるベーシック・インカムが可能になるかもしれない、と。
しかも、これから貨幣の重要性が下がっていく中で、貨幣での所得保証のみに限らず、ベーシック・インカムを「衣食住など最低限生活に必要なものを保証するすべてのシステム」と、広く定義して考えていきたい、と。
「今も本当にそれをやる価値があるのか」を優先して考えること
私と同じような不安を抱いていた方にはぜひともご一読いただきたい書籍です。ほんとうによい意味で頭をガツンとやられました。古い思考回路にとらわれていてはダメだと思い知らされました。
なによりもありがたいのは、私自身、将来を悲観しすぎず、明るい希望を抱けるようになったことです。テクノロジーの進化やイノベーションの力を信じることが、個人的にもメンタル面にプラスに働いています。
最後に著者の言葉のなかで個人的に印象に残ったものをご紹介します。
物事は、惰性で進みがちです。「どうすれば現状のやり方を効率化できるか」と考える前に、「今も本当にそれをやる価値があるのか」を優先して考える癖をつけることをお勧めします。
佐藤航陽『未来に先回りする思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)第4章 未来に先回りする意思決定法 効率化の「罠」を回避する方法
本当の意味で合理的な判断がしたいならば、非合理的なものを許容しなければいけません。(中略)
将来的に新しい情報が得られるであろうことを考慮に入れた上で、一定の論理的な矛盾や不確実性をあえて許容しながら意思決定を行うことが、未来へ先回りするための近道です。
佐藤航陽『未来に先回りする思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)第4章 未来に先回りする意思決定法 合理性は後付け
老化による思考力の衰えを覚悟しつつある私ですが、それでも可能な限り思考停止せず、自分でよく考えて判断する、決断するという習慣を維持したいと思います。
本書について書きたいことが多すぎて長文になってしまいました(汗)。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少しでもお役に立てばうれしいです!
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