私は頭のなかであれこれ考えることが好きです。
いきなり断言するとなんだか気恥ずかしいですが、とにかく物事を深く理解したいと望んでいます。なにか悩みや問題があればどうするべきか真剣に考えます。
でも思い返してみると、問題が解決すれば満足感はあったかもしれませんが、心の底から喜びを感じることはありませんでした。
翻訳をしていたときも、ひとつひとつの仕事に真剣に向きあい、少しでもよい翻訳になるように自分なりに努力してきました。
とはいえ、精神的な充足感は得られず、つねにまだまだ努力不足、もっと能力を伸ばさなければという切迫感に駆られていました。
本書、ジョセフ・グエン著、矢島麻里子訳『考えすぎない練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読むことで、私自身、なにがいけなかったのか、答えが見つかったような気がしました。
内面的な喜びや充足感を手に入れるには
私たちは「考え」によってつくられた世界に生きている

まず大前提として、私たちが仕事での成功やお金、良好な人間関係を望むのは、あくまで内面的な喜びや充実感といった感情を味わいたいからだと著者は述べています。
こうした物理的な成果が喜びなどの感情を与えてくれると思い込んでいるけれど、そこが落とし穴なのだと。
では、私たちが真に求めている内面的な充実感は、どうすれば手に入れられるのでしょうか?
まず理解しなければいけないことは、著者によれば、私たちは現実の世界ではなく、「考え」によってつくられた世界に生きているのだということ。
私たちの現実に対する認識は、私たちがその出来事に与える意味や考えからつくられます。私たちの人生経験はすべてそうやってつくられるのです。
良い感情や悪い感情を引き起こす原因は、人生に起こる出来事そのものではなく、その出来事に対する私たちの受け止め方にあります。
ジョセフ・グエン著、矢島麻里子訳『考えすぎない練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
確かになんらかの出来事そのものによい悪いはなく、それをどう受け止めるかによるのだとよく言われます。
そして、物事の受け止め方はひとそれぞれで、同じ状況にあっても楽観的な人と悲観的な人では驚くほど反応が違います。
かつての私はかなり悲観的に考えるタイプだったので、ちょっとうまくいかないともうダメだと思いこみ、さらに自分に追い打ちをかける始末でした。
私たちの感情は外的な出来事から生まれるのではなく、その出来事に対する私たち自身の考えから生じます。そのため、私たちは自分が考えていることしか感じることができません。
自分が考えていることしか感じられないとわかれば、自分の考えを変えることで感情を変えられるとわかります。つまり、経験が自分自身の考えから生じていると理解することによって、人生の経験を変えることができるのです。そして、もしそれが真実なら、私たちは頭を切り替えるだけで─考えない状態を通して─いつでも異なる経験をし、人生を変えられるようになります。
ジョセフ・グエン著、矢島麻里子訳『考えすぎない練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
実際、悩めば悩むほど、考えれば考えるほど、解決から遠ざかっていき悪循環におちいるのはよくあること。自分の頭のなかだけで考えたり悩んだりするのは、結局、時間のムダに終わりがちです。
私たちの頭脳の役割は私たちの安全と生存のみに関係しており、私たちの心身の健康、充実感や喜びとは無関係だと著者は述べています。頭脳を使い続けていると、「闘争か逃走か」の状態が持続し、不安や恐れなどのネガティブな感情に常にとらわれることになるのだと。
「考え(Thoughts)」と「思考、考えること(Thinking)」を区別しよう

こうした前提のもと、実際にどうすればよいのか。著者は「考え(Thoughts)」と「思考、考えること(Thinking)」を区別するように説いています。
「考え」を持つのに労力はいりません。考えは自然に生じるものです。どんな考えが頭に浮かぶのかをコントロールすることもできません。考えの源は、私たちの理解を超えた存在からもたらされます。
一方、「思考(考えること・ Thinking)」は自分の考えについて思考する行為です。思考するためには相当量のエネルギーや労力、(限りあるリソースである)意志力が必要です。
ジョセフ・グエン著、矢島麻里子訳『考えすぎない練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
つまり、なにかアイデアやプランが頭に浮かんだとしたら、それは「考え」であり、それについてあれこれ考えはじめたら、それが「思考」であると。
よいアイデアが浮かんだらワクワクする。ところが具体的にあれこれ考え始めると、ネガティブな感情が生まれて、実現可能性を否定してしまう。
自分の考えについて思考すると、私たちはその考えについて判断や批判を始め、あらゆる種類の感情的な苦しみを経験するのです。
ジョセフ・グエン著、矢島麻里子訳『考えすぎない練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
著者によれば、
つまり、せっかくの創造的でポジティブなアイデアも、そこから思考を巡らせたとたんにネガティブな感情に襲われ、気が重くなってしまうというのです。
考える量が少なければ少ないほど、ポジティブな感情が自然に生じる余白をより多くつくることができるのです。
私たちは、浮かんだ考えについて「考えること」は最小限に抑えて、「考え」だけが次々と浮かんではあふれてくる状態を目指しているのです。
ジョセフ・グエン著、矢島麻里子訳『考えすぎない練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
そのためには、純粋に「いま、ここ」に心を置くだけでいい、と著者は述べています。マインドフルネスな状態ということかもしれません。
さらに言うなら、自分が思考していることしか感じることができないのだから、ネガティブな感情を多く抱えている場合は自分が考えすぎているとわかる、と。
切羽詰まった状態で目標を立てると……

本書のなかで私自身が痛恨の思いで読んだのが、「切羽詰まった状態で目標を立てると、私たちは大きな不足感や切迫感を感じます」という指摘でした。
目標はその源によって「インスピレーションに基づく目標」と「切羽詰まった状態で立てた目標」の2通りに分けられる、と著者は述べています。
切羽詰まった状態で目標を立てるとどうなるか。
がむしゃらに日々を送り、目標を早く達成できる方法を懸命に探して、常に外側に目を向け、満足感や十分にやったという感覚を得ることができません。(中略)
自分がやり遂げたことに満足せず、自らの成果を味わうことができず、十分にやったと感じられないため、自分自身についても同じような不足感を抱きます。
他に何をすべきかわからず、外部に評価の指針を求めて、他の人が何をしているのか、同じことをやり続けているのかを確認します。その結果、自分の心を苦しめているネガティブな感情から逃れようと、切羽詰まった状態でまた別の目標を立て始めます。
これらはすべて典型的な「手段としての目標」であり、「最終目標」ではないことがわかります。
ジョセフ・グエン著、矢島麻里子訳『考えすぎない練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
かつて翻訳の仕事をしていたときの私がまさにそうでした。
自分に自信がないため外部からの評価に頼ろうとしていました。ただA評価や成績優秀者、成績上位といった高評価を受けたくてがむしゃらにコンテストやトライアルを受けようとしていたのです。
確かに本書の指摘どおり、これは「手段としての目標」であり、「最終目標」ではなかった。
最終目標は自分の好きな作家やジャンル、自分自身が心を動かされた小説を翻訳して、読者にも同じ感動をおぼえてほしい、そして多少は評価されればうれしい。とにかく好きな本を訳してみたかった。それなのに……。
こうして立てた目標は自分にプレッシャーをかけ、追い詰めただけで、達成できなかったときにはさらに自信を失う結果になるだけで、ある程度達成できた場合もあまり満足感は得られませんでした。
もっともっと上を目指さねばという切迫感に苛まれただけ。
つまり、切羽詰まった状態で「~しなければならない」という目標を立てるのではなく、インスピレーションから生じた「~したい」という目標を設定するべきだったのですね……。
これはなにも仕事に限ったことではありません。
私個人の経験では、日頃から頭で考えすぎて、「こうしたいな」「こうなったら楽しいな」といった発想やインスピレーションというものをまったく失っていました。
あげくは自分がどうしたいのか、そもそもどうしたかったのかという目標すら見失っていたのです。
あれこれ考え、悩み、分析し、判断しようとしてきたけれど、どれもうまくいかなかった気がします。
「こうしたいな」と一瞬思いついても、いつもその考えをすぐさま無理だと否定してきたのが悪かったのでしょう。
思考を手放すことで幸せを手に入れよう

さいごに本書から、考えるのをやめるためのヒントをいくつか抜粋しておきます。
- 考えることがすべての苦しみの根本原因であると認識する
- もし苦しんでいるなら、自分が考えていることに気づく
- 私たちの頭の中の考えは事実ではない
- ネガティブな思考は、それを信じている場合にだけ、自分を支配できることを認識する
- ネガティブな思考を受け入れ、それが通り過ぎるのに任せる。そうすると安らぎなどのポジティブな感情が自然に湧いてくる
- インスピレーションや高揚感を与えないものや行動を生活からできるだけ取り除く
- 何も考えない無思考の状態になれる環境をつくる
私のように頭でっかちで悩みがちな人間にとっては一読の価値ある有益な本でした。
たぶん、そもそも本書を読まなくてもこうした生き方を実践できている人も大勢いると思います。
本を読まなければわからない、理解できない、ということ自体がまさに頭でっかちで残念な気もしますが、そういう自分を受け入れて生きるしかないですね(笑)。
本書のアドバイスをすべて実践するのはなかなかハードルが高いかもしれませんが、まずはひとつだけ、わかりやすい合図として以下を心にとめておこうと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
私のように悩み過ぎ、考え過ぎの人にとって少しでもお役に立てばうれしいです。考える量を減らしましょう!














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