今回のテーマはちょっと大げさではありますが、翻訳のプロになることによって「失った」あれこれについて書いてみます。
あくまで私個人の経験談として、へえ、そんなものなのかな~、くらいに気楽に読んでいただけたら幸いです。
私はかなり生真面目で、つい限界まで無理をするタイプ。とことん考えこんでしまう諦めの悪いタイプ。というわけで、仕事や趣味を心の底から楽しめるタイプの人からすれば、おそらくとても理解できないだろうなと私自身わかっています。
まぁ、こんな翻訳者もいるんですよ、ということで。あんまり優秀じゃない翻訳者の例かも……。なので反面教師にしていただければ~。
翻訳で失ったモノ(?)7選
1.読書や映画の純粋な楽しみ
たぶん翻訳者あるあるだと思うのですが、英語や日本語を目にするとつい訳そうとしてしまいます。癖になっているのでしょうね。困ったことにとっさにうまく訳せないと意地になってあれこれ考えてみたり。
さらに「おっ、この表現は今度どこかで使おう」と、気の利いた表現、かっこいい言葉などをメモするのも習慣になりました。
というわけで、無心かつ純粋に小説や映画を楽しめなくなった、というのが本音です。
おまけに仕事の関連書や参考書を読むのに精いっぱいだったり、人気有名作品、~賞受賞作などに目を通さねばというプレッシャーに駆られたりと、結局、自分の好きなジャンルの本、読みたい本を読む時間がない~ということに。
2.完全に自由な時間
翻訳という仕事はつねに締め切りに追われます(もちろん、時間管理の得意な方もおられるとは思いますが)。私の場合、仕事を抱えているあいだは、四六時中、いつも頭のどこかで訳のことを考えていたり、うまく訳せなかった箇所が頭から離れずもっとピタリとくる訳を探していたり。
大げさにいえば気の休まる時がなかなかありません。私のようにオンオフをうまく切り替えられないタイプにはけっこうつらいときもありました。
3.運動の喜び
フリーランスの翻訳者は、基本的にずっと自宅でパソコンの前に座って作業しているでしょう。時間的には自由といえば自由なのですが、翻訳という作業はなかなか予定どおりに進まないことも多々あり、どうしても時間に追われるはめに。早朝から深夜まで、あるいは仮眠をとって長時間、締め切り直前には徹夜して訳し続けるなんてことも……。
原文の難易度、調べ物の多さ、本人の体調や調子によって計画どおりに訳せないことはしょっちゅうです。もちろん、だからこそ余裕をもって計画を立てるのですが……。
とにかく時間がない! 焦る! 本来は自分の体のメンテナンスにあえて時間を割くべきですが、翻訳作業を進めることが最優先になってしまい、体のことは後回しになりがちです。慢性的な運動不足になりますね。
4.家族や友人とのんびり過ごす時間
あくまで私の場合ですが、家族や友人と外食するなどゆっくりと過ごしたくても、締め切りのことがつねに頭になるので、積極的に予定を入れる気になりません。つねに臨戦態勢といいますか(笑)、想定外のことが起こった場合にも対応できるようにせねばと思ってしまいます。
そしてせっかく予定を入れたとしても、締め切りに追われると、旅先にもパソコンを持参するはめになります。午前中や夜に自分だけ仕事をするなんてことに。
仕事関係のメールはいつ入るかわかりませんから、旅行中でもメールチェックや返信、できる限りの対応は必須でした。そこまでせずに、仕事の関係者に前もって予定を伝えておけばよいのですが、私はなかなかそれができなくて……。自業自得なんですが。
5.自己充足感
翻訳学習に終わりはありません。言葉の勉強はどこまでいっても完成しない。上には上があります。
答えはひとつではなく、選択肢は無数にあります。感性を磨く必要もあるでしょう。エンタメ系の翻訳は理屈ばかりではなく感覚の部分も大きいと思います。
「こんな名訳、私にはとても思いつかない」というふうに、ほかの翻訳者さんのすばらしい仕事ぶりを見ると、私ももっとがんばらなきゃ、勉強しなきゃ、と反省しきりでした。
もちろん、自分の能力や努力には限界がありますから、それを素直に認めなければいけないともいえるのですが、それでもプロの翻訳者なら自分なりにベストを尽くさねば、自分としては最高の作品にしなければ、とつねづね自分に言い聞かせていました。
6.心の平安!?
いくらきっちりと調べ物をこなしてもつねに完璧に「正解」を見つけられるわけではありません。調べた結果、おそらくはこの解釈、訳語で正しいだろうと判断して納品することも多々あります。ですから仕事を終えたあとで不意に不安になったり、なんらかの関連情報を目にして冷や冷やしたりといったケースも。
本音をいわせてもらえれば「調べたけれど、わかりません!」と堂々といいたいけれど、それはプロとしていえない。英語関連のことで「わからない」「知らない」ということがあってはならない、あったら恥だ、みたいに自分を戒めていました……。
もうひとつ、パソコンなど機器の故障やデータの消失が怖くてなりませんでした。作業用パソコンはつねに2台体制、データの保存も厳重に、という用心ぶり。なにしろ映像翻訳の場合は締め切りがかなりタイトだったので、数時間のロスでも命取り。何かあればもう一台のパソコンですぐさま作業を再開できるようにしていました。
7.目の健康
さいごはちょっと無理やりひねり出したみたいになりましたが(笑)、翻訳はやはり目をかなり酷使する仕事にはなりますね。基本的に毎日長時間パソコン画面をじっとにらみながら作業しますから。
私の場合、とくに網膜格子状変性という網膜剥離につながるおそれのある病気が見つかったこともあり、目の健康にはとくに気をつけるようになりました。定期健診を怠らず、翻訳作業にかかるときはタイマーをかけて30分から1時間ごとに必ず休憩をとるようになりました。
さいごに
私自身、年齢を経て無理がきかなくなるにつれて、工夫を重ねるようになりました。30代~40代はなんとかやる気とがんばりだけでも乗り切れたのですが、50代以降はさすがに……。
ですから、上記の内容を反面教師として、なるべく早いうちから時間管理や体調管理、ストレス管理をしっかりやっていただけたらと思います。将来にわたって長く活躍していくためにも体が資本であり、頭や精神の健康こそ、よりよい仕事をするために大事なことだと考えてくださいね。
フリーランスの翻訳者こそ、若いうちから時間管理や体調管理に努め、長く活躍するために頭や精神の健康を心がけよう!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少しでもお役に立てばうれしいです!
時間管理については、よろしければ以下の記事も参考にしてくださいね!
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