現在、翻訳者を目指してスクールなどで勉強中の方々に、私自身の修業時代の反省をこめてお伝えしたいことがあります。
他人と比較して落ちこんだりしていませんか? クラスの優秀な仲間に対してつい嫉妬したりしていませんか?
もっとも大事なことは、他人と比較しすぎない、他人に嫉妬してはいけない、ということ。
どんな仕事を志すうえでも通じる戒めだと思いますが、そのことを再認識するきっかけになったお話からまず始めさせてください。
パリ・オペラ座バレエ団 日本人初のエトワール オニール八菜さん「他の人とは比べないようにしている」
先日、WOWOWのドキュメンタリー『ノンフィクションW パリ・オペラ座バレエ団 オニール八菜 夢の中で踊る』を観ました。オニール八菜(はな)さんは、日本人で初めてパリ・オペラ座のエトワールに任命された女性です。
なかでも印象に残っているのは、「ライバルはいるのか?」という質問に対して「他の人とは比べないようにしている」と八菜さんが答えたとのこと。恩師によれば子どもの頃から「他人と比べての負けず嫌いじゃない、自分に対して負けず嫌いだった」そうです。
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そのエピソードを耳にして、どの世界でもやはりそういう心がけのある人たちがトップに立つのだろうと納得しました。そこで、翻訳学習中の方々でかつての私と同じように悩んでいる人がいるなら、他人と比べすぎないように、ゆめゆめ他人に嫉妬したりしないようにとお伝えしたくなったのです。
作家の村上春樹さん「他人と優劣を競い勝敗を争うことは、僕の求める生き方ではない」
活躍する分野は異なりますが、作家の村上春樹さんもやはり同じタイプのようです。
小説家という職業に――少なくとも僕にとってはということだけれど――勝ち負けはない。(中略)書いたものが自分の設定した基準に到達できているかいないかというのが何よりも大事になってくるし、それは簡単には言い訳のきかないことだ。他人に対しては何とでも適当に説明できるだろう。しかし自分自身の心をごまかすことはできない。
村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』(文春文庫)
前にも述べたように、日常生活においても仕事のフィールドにおいても、他人と優劣を競い勝敗を争うことは、僕の求める生き方ではない。
村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』(文春文庫)
村上さんについては、小説の魅力ももちろんのこと、彼自身のストイックな生き方に感銘を受けることも多いです。自分自身にプライドを持ち、自分の生き方を貫く人はすごいなと心から尊敬します。
私自身は、優秀で才能にあふれたポジティブな仲間たちが心底うらやましかった……
私自身はまったくの器の小さい人間で、他人ばかり気にして、嫉妬に駆られることも多々ありました(笑)。自分に自信がなかったせいでもありますが、多少なりとも自信をつけるためには日頃から努力が必要なのにそのあたりもおろそかにしていたからますます始末が悪い……。
これまでいろいろなスクールで勉強してきました。通訳・翻訳スクール、翻訳学校、映像翻訳学校など。さらに通信講座やオンライン講座も。
どのクラスにも明らかに頭ひとつ抜けている、能力や資質にきわめて恵まれた生徒さんがいます。物おじせず積極的にクラスに参加し、実力を伸ばしていく人もいます。講師から特に目をかけてもらえる人もいます。
私は概してどのケースにも当てはまらないことが多かったです。一度だけ訪れた幸運といえば、以前にもブログに書きましたが、通信講座のスクーリングで講師の翻訳者の方から下訳の依頼をいただいたことでしょうか。その経験を除けば、記憶にある限り、最優秀生徒だったこともなく、積極的に講師にアピールできたこともありません。とにかく地味でおとなしい生徒だったと思います。
だからこそ、優秀で積極的な受講生仲間が心からうらやましかったですね。あんなに堂々とみんなの前で発表できたら、なんでもオープンに講師に質問できたら、と……。おわかりのとおり、根暗で鬱々とした人間でございました……(笑)。
翻訳修行中のみなさんへ「他人と比較しないこと、他人に嫉妬しないこと」
若い頃はやたらとうじうじ悩んでいたのですが、年を取るのもよいもので、悩むだけの時間も体力も精神力もとうになくなってしまいました(笑)。
ですから、60代に突入した今はとにかく行動あるのみ。悩むより対策を考える、現実的に考えて自分にできることだけに集中する、とりあえず一度やってみてダメならまた方法を考え直す、というポリシーで生きております。
さて、修業時代にもっとこうしておくべきだったという反省点を踏まえ、今の私ならこうしたい、こうありたい、という観点から、ポイントをまとめてみます。
- 他人と比較しない
- 他人に嫉妬しない
- 他人の優れている点を見つけて、そこから学ぶ
- 自分の強みや得意分野を見つけて、そこを伸ばす努力をする
- 自分が目指す分野や目標を決めて、そこに向かって努力する
他人と比較して嫉妬してみても、現実には何も変わりませんよね。他人が自分より優れているなら、その人に勉強方法をたずねてみたり、その人の優れている点から学んだりするほうがよほど有意義です。それができないなら、他人ではなく自分に目を向け、自分の強みを生かすように努力するほうがいいでしょう。
自分の弱点や劣っている点ばかりに気をとられないようにしましょう。
ライバルは自分。自分に負けないで!
とはいえ、理性的にはそう判断できても、感情的にはなかなかそうすんなりと気持ちを切り替えられないものです。そこで次のように自分に言い聞かせてみてはいかがでしょう?
- 今の自分にはまだ無理でも、努力を続けていけば必ずできるようになると信じよう
- 小さな達成感を積み重ねていき、モチベーションを維持しよう
- ライバルは自分。自分に負けないようにしよう
ライバルについては、もちろん、お互いに刺激しあい切磋琢磨できる、よい意味でのライバルがいるなら、それはきっと自分にとってプラスに働くはず。勉強に行き詰まったとしても、ライバルのことを思いだして、気持ちを奮い立たせることができるでしょう。
ただし、間違った方向に向かってがむしゃらに努力していても、その努力がまったく報われない可能性もありますから、その場合はいったん立ち止まってよく考えてみてくださいね。
- どうしても合わないなら、目指す分野を変更するのもよい
- 無理せず方向転換することもときには大事だと考えよう
- かなり努力しているのに講師にまったく評価されない、講師の評価が低いと感じるなら、クラスや講師の変更を検討するのが有効な場合もある
要は、あまり思いつめずに、その都度変化していける柔軟性を保っておくことが大事かと思います。「言うは易く行うは難し」だと私自身理解していますが、少しでもその方向に持っていけたら楽になると思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
できるだけ楽しく充実した翻訳修行時代を過ごしてくださいね。
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