全勝でなくていい。「九勝六敗」を狙っていこう! ~色川武大『うらおもて人生録』より~

九勝六敗を狙え 色川武大『うらおもて人生録』より
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つねに100パーセント、全力投球!?

つねに全力で仕事に取り組んでいませんか? どんなささいな仕事も手を抜かず、自分の能力を最大限に発揮しようとしていませんか? 仕事の評価や翻訳のトライアルなども、つねに高評価を狙っていませんか?

少なくとも私自身は上記のようなタイプでした。自分の能力に自信がないからこそ、つねに全力で勝負しなければいけない、全力を出し切らないと仕事で評価されない、と思いこんでいました。

でも、当然ながら、毎回毎回100%全力を出していると、疲れ果ててしまいます

翻訳のお仕事では、編集者さんや校正者さんが訳稿を丁寧に読み、必要であれば修正案を提示してくれます。私の場合、いったん自分で完成させた訳文の一部を修正するとなると、その前後との整合性なども含め、かなり頭を悩ませることになります。原文の理解から覆されるようなケースだと、それこそもう七転八倒するはめに(笑)。作業が終了すると、ぐったりしてしまうことも多々ありました。

九勝六敗くらいを目標にして、一生勝ち抜くことが大事

そんなふうに疲労困憊しているようでは、プロとしてコンスタントに仕事をこなすのは難しいですよね。またまた悩んでいたときに出会ったのが、阿佐田哲也名義『麻雀放浪記』などの麻雀小説を手がけた作家、色川武大さんの『うらおもて人生録』でした。

《プロは、一生を通じてその仕事でメシが食えなくちゃならない》

《だから、プロの基本的フォームは持続が軸であるべきだ》

《しかし、なにもかもうまくいくということはありえない》

 逆にいうと、フォームというものはけっして全勝を狙うためのものではないんだ。六分四分、たとえわずかでも、いつも、どんなときでも、これを守っていれば勝ち越せるという方法、それをつかむことなんだ。

色川武大『うらおもて人生録』(新潮文庫)「九勝六敗を狙え――の章」より

色川さんは、一生を通しての「運の制御」という観点から、「六分勝って、四分捨てる、というセオリー」を論じています。「全勝に近い成績をあげてしまうのは、フォーム以外の運を大きく食っているから」「適当な負け星を選定するということは、つまり、大負け越しになるような負け星を避けていく、ということでもある」のだと。「九勝六敗くらいの維持を目標にしてやる」、そして「一生を通算して勝ち抜く」ことが大事だと。

黄色やオレンジの光が浮かんだ画像

「70点以上の安定した翻訳」をしよう

字幕翻訳講座に通っていたとき、「ショーシャンクの空に」などの字幕翻訳で有名な岡田壮平先生に教わる機会がありました。ほんとうにすばらしい、心に残る授業だったのですが、先生から「使う側からの目で見て70点を付けることのできる字幕翻訳なら次からも使ってもらえる可能性大です」と教わりました。

さらに岡田先生の恩師木原たけし先生からの教えとして「ミスはあるさ。常に70点以上の安定した翻訳をしろ。好不調の波があっては駄目。完璧な翻訳はないが、少しでも100パーセントに近づけるよう努力するように」という言葉もご紹介くださいました。

この言葉は翻訳を続けていくうえで、本当に心強いアドバイスだと痛感します。翻訳には絶対的な「正解」はないので、自分としては100パーセント全力を出し切ったつもりでも、他者からの評価は100点満点とはいかないことが大半でしょう。だからこそ、どんな人が評価しても70点をもらえたらそれでよしとする、そういう割り切りもプロとして長く仕事を続けるうえでは大切だと思います。

長い仕事人生を乗り切るためには、一生を通じて「九勝六敗」の「勝ち越し」を狙う、毎回の仕事も安定して「70点」を目指す、という気持ちでいられたら、多少気楽に肩の力を抜いて取り組めるかもしれません。そして、そのほうが結果としてよい仕事、よい人生につながっていくのでしょうね。

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